認知運動機能制御科学研究室

京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻

先端リハビリテーション科学コース

先端作業療法学講座 臨床認知神経科学

研究概要

身体機能障害の患者に対するリハビリテーション・作業療法では,脳や脊髄を含む中枢神経系に焦点を当てることが重要です。当研究室では,神経生理・神経心理学的手法,脳機能イメージング法,三次元動作解析法など様々な実験手法を駆使し,ヒトの運動時あるいは作業活動時の中枢神経系の興奮性を非侵襲的に評価することで,科学的根拠に基づく効果的な治療プログラムを開発することを図っています。また,アニマルを対象に主に電気生理学的手法を用いて中枢性の運動・循環調節機構について調べています.一方,臨床では実験室で得られた研究結果に基づいて患者の機能回復を目指して評価や介入を試みています.基礎研究で得られた成果を臨床治療で効果的かつ効率的に実用化させる,いわゆるトランスレーショナルリサーチを積極的に展開しています.具体的には以下の研究テーマについて取り組んでいます.

    1. 随意運動の中枢制御機構に関する研究
    2. 大脳左右半球の異同と相互作用に関する研究
    3. 認知・運動課題遂行中の脳活動に関する研究
    4. 運動イメージ・観察・錯覚の中枢メカニズム及び運動学習効果に関する研究
    5. 予測的姿勢制御に関する研究
    6. VR/MR/ARを用いたリハビリテーション評価と治療方法の開発
    7. 中枢および末梢神経系損傷患者の機能回復メカニズムに関する研究
    8. 反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)と運動学習との相互作用に関する研究

基礎研究(ヒト対象)

私たちは動こうとすると四肢が自由に動きます.下図のように,「動く」という意志に伴う中枢運動指令(信号)が大脳で発生し,中脳-橋-延髄(交叉)―(対側)脊髄を経て筋肉に到達し,筋を収縮されることによって随意運動が実現されます.それと同時に,運動に伴い自律神経系も賦活されることから,中枢循環指令が同時に下行し,心臓や末梢血管運動を調節していることがわかります.私たちの研究室では,そういった中枢運動・循環指令に焦点を当て,実験機器を用いて様々なレベルでその「指令」を可視化し量的に評価します.実際の随意運動に伴う運動パフォーマンス,運動を可能にしている筋活動,それをもたらしている脊髄運動ニューロンの活動,その上位中枢でコントロールしている大脳皮質運動野,さらにそれを修飾している大脳皮質の他領域の活動を明らかにします.それらを用いてヒトの認知・運動課題中の中枢神経系・末梢神経系の興奮性変化を捉え,中枢制御機構・メカニズムを明らかにすると同時に,効果的なリハビリテーション治療方法を常に考えています.

CNS

一般的な携帯アプリでも追従システムを用いてもの移動軌跡を描くことができますが,三次元動作解析システムを用いてヒト運動・動作時の関節角度変化を経時的に評価することができます.下図は,ジャグリング動作時にジャグリングを追従した時と,ダーツ投げ動作時実験風景および解析例です.また,床反力計を用いて,動作時の重心動揺を推定することができます.前後方向,左右方向,上下(鉛直)方向に加える力を検出して,体の重心軌跡(COP)や圧力中心を表示することができます.

Performance Ground force

随意運動には必ず筋活動が生じます.ダーツ投げの動作に伴い,主動筋・拮抗筋,あるいはバランスを保つために下肢筋の筋活動は表面筋電図法を用いて経時的,量的に評価することができます(下図).また筋電図の周波数解析を行うことで,ある程度筋疲労について捉えることもできます.そして末梢神経電気刺激法を用いてH波,M波,F波などを誘発することで,脊髄反射回路の興奮性や末梢神経伝導速度などを評価することができます.患者さんの臨床検査,診断で利用できるだけではなく,経頭蓋磁気刺激法などの実験方法と併用することによって,中枢神経系のメカニズムを探索するのに役立ちます.

Surface EMG

脊髄α運動ニューロンは「最終共通路」として知られていますが,大脳皮質において運動関連領域で「最終出口」として深く関わっているのは運動野です.経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いてヒトの大脳皮質運動野の興奮性,あるいは錐体路の興奮性を捉えることができます(下図).TMSは従来用いられる経頭蓋電気刺激と比べ非侵襲的であり,その安全性と妥当性が確認されており,ヒトを対象とした研究や臨床で広く使われています.頭蓋上で磁場を介して大脳皮質錐体路細胞を脱分極させ,脊髄α運動ニューロンを興奮させる結果,末梢筋電図では運動誘発電位(Motor evoked potential, MEP)が導出されます.単発TMSによって誘発されるMEPの潜時,振幅値,休止期などの指標を用いて,中枢神経伝導速度や大脳皮質運動野を含む皮質脊髄路の興奮性,また二連発TMSを用いて皮質内抑制・促通回路の興奮性,皮質間の連絡について調べることができます.空間分解能は5 mm程度,時間分解能はms単位での解析が可能です.本実験手法を用いて,運動時は勿論のこと,運動観察や運動イメージなど認知機能が関わるような実験課題でも有用です.

TMS

反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)は,大脳皮質神経細胞のシナプス強度を人工的に変化させ,長期増強(Long-term potentiation, LTP)と長期抑圧(Long-term depression, LTD)効果をもたらすことができます.rTMSを用いて,臨床においては脳血管障害による後遺症,パーキンソン病,ジストニアなどの中枢神経系の障害,そしてうつ病,統合失調症など精神障害に対して治療的に用いられ,成功例が多く報告されています.さらに,rTMSを用いて運動学習との相互作用,中枢神経系・末梢神経系に与える影響について調べています.

基礎研究(アニマル対象)

ラットを対象にrTMSの効果とその他の運動療法,物理的刺激,細胞移植などとの相互作用について調べています.

rTMSxrats

臨床研究

京都大学医学部附属病院リハビリテーション部と連携して,脳血管障害後遺症の患者における運動麻痺あるいは痙縮に対する効果的なリハビリテーション治療について研究しています.また,脳腫瘍患者の術前後,あるいは術中の感覚運動機能,高次脳機能評価に関する研究を行っています.

共同研究先